2026/09/07

「培ってきたもの」こそ、価値になる。──知財・無形資産の時代に考える、企業の「らしさ」とデザイン経営

「企業の価値」は、売上や利益、設備や商品といった「目に見えるもの」だけで決まるのだろうか。

長年築いてきた顧客との信頼、地域とのつながり、独自の技術やノウハウ、ものづくりへのこだわり。
企業が時間をかけて培ってきた「目に見えないもの」の中にも、その企業にしかない価値がある。

いま、こうした知財やブランド、ノウハウなどの「無形資産」が、企業の成長や競争力を支える経営資源として注目されている。

では、企業が培ってきた「目に見えない価値」を、どう見つけ、どう事業や社会の価値へと変えていくのか。
私たちは、そこにデザイン経営の役割があると考えている。

「知財・無形資産」が経営のテーマに

2026年8月3日、政府が「知財・無形資産投資に関する開示要請」を公表した。

これは、企業が持つ知的財産やブランドなどの「無形資産」への投資・活用を促すもので、無形資産が生み出す中長期的な利益や、投資による成長へのつながりを可視化し、投資家への開示を促すものだ。
世界で知財を企業価値の向上につなげる動きが広がる中、日本企業の意識改革と競争力強化を後押しする狙いがある。

※参考:知財・ブランドへの投資 企業に情報開示要求 政府が要綱公表日本経済新聞)」

政府が公表した要綱では、知的財産やブランドなどの「無形資産」を、単なる保護の対象ではなく、他社との違いを生み出す「経営資源」として位置づけている。

対象となるのは、特許権や著作権だけではない。ブランド、経営ノウハウ、顧客データなども含まれる。企業には、こうした「無形資産」への投資状況や、それを中長期の成長にどうつなげるのかを、有価証券報告書や決算資料などで示すことが促されている。経営陣や取締役会が関与し、知財部門と事業戦略を一体で考えることも重視されている。

このニュースを読んで、私たちが思い出したのが、7月14日に掲載された、もう1つの日経新聞の記事だ。

日本の特許競争力、G7で最低 産学連携のビジネス活用弱く

2つの記事を並べてみると、これからの企業経営に何が問われているのかが見えてくる。
それは、「企業がこれまで培ってきたものを、どう価値に変えるのか。」という問いである。

「培ってきたもの」が、そのまま価値になるわけではない

「日本の特許競争力、G7で最低」という記事は、少し意外な事実から始まる。
日本は、特許の「数」が少ないわけではない。

記事では、AI・先端ロボット、量子コンピューター、半導体・通信、バイオ・ヘルスケア(再生医療)、核融合、宇宙という6分野について、日本の産学連携特許は2,064件にのぼり、米国の955件、ドイツの214件を大きく上回っている。
ところが、特許の技術的価値や市場的価値などから算出した「競争力指数」は、G7で最低だった。

つまり、
技術を培ってきたことと、「その技術を価値に変える」ことは違う

ということだ。 どれだけ優れた技術や研究成果があっても、それが事業や社会の価値につながらなければ、競争力にはなりにくい。
記事では、日本の特許技術が実際のビジネスに十分活用されていないことが、競争力を押し下げる要因になっていると指摘している。
一方、ドイツや米国などでは、大学の研究成果を特許につなげ、企業への技術移転や事業化を支援する専門組織が活発に活動している。

大学と企業の間に専門人材が入り、
「この技術をどう事業にするか」 「社会にどんな価値を生み出せるか」 という視点から知財を扱っている。
ここで問われているのは、単純な「研究力」だけではない。

これまで培ってきたものを、どう社会の価値に変えるのか。
その力が問われているのである。

無形資産には、「企業らしさ」が宿っている

今回、政府が活用を促している「無形資産」には、特許や著作権だけでなく、ブランド、経営ノウハウ、顧客データなども含まれている。
これらに共通しているのは、目には見えにくいけれど、企業の中に長い時間をかけて蓄積されてきた価値だということだ。

長年培ってきた技術/顧客との信頼関係/独自のノウハウ/企業が築いてきた信用

こうした一つひとつの積み重ねが、他社にはない「その企業らしさ」をつくっている。

企業の価値は、特許や設備、売上といった目に見えるものだけでできているわけではない。
むしろ、長い時間をかけて培われた、目に見えないものの中にこそ、その企業ならではの強みが眠っていることがある。

「当たり前」の中に、価値が眠っている

しかし、私たちも支援の現場で感じているのが、もう一つの難しさだ。
企業自身が、自分たちの価値に気づいていないことがある、ということ。

例えば、ある地域企業に「強み」を尋ねると、
「特別なことはしていない」「昔からやっているだけ」「うちの業界では普通のこと」、
そんな答えが返ってくることがある。

しかし、外から見ると、その「当たり前」の中にこそ、他社にはない価値がある

長年築いてきた地域とのつながり/受け継いできた技術/顧客との信頼関係/土地に根ざした素材や文化/その企業で働く人たちが大切にしてきた考え方、なども挙げられる。

問題は、それが「価値」として認識されていないことだ。

だからこそ、自分たちの中にあるものを見つめ直し、その意味を捉え直す必要がある。
そこから初めて、企業の「らしさ」が社会に届くものになっていく。

では、企業の中に眠っている「らしさ」を、どうすれば価値として社会に届けられるのか。
私たちは、そこにデザインの役割があると考えている。

デザインというと、企業や商品のロゴやパッケージ、ウェブサイトなど、目に見えるものをつくることをイメージするかもしれない。

しかし、その前にあるのが、
「私たちは何者なのか」「何を大切にしているのか」「誰に、どんな価値を届けるのか」
という問い
である。

自分たちの中にある技術や経験、文化、顧客との関係性などを見つめ直し、そこにどんな価値があるのかを整理する。

デザインとは、目に見えるものをつくるだけでなく、企業の中にある「まだ言葉になっていない価値」を見つけ、社会に届くかたちへ変換することでもある。

DIOの伴走支援では、ワークショップ形式で企業や地域の「無形資産」「らしさ」を掘り下げていく

「培ってきたもの」を、どう価値に変えるか

例えば、「優れた技術を持っている」企業があったとする。もちろん、技術そのものは重要な資産である。しかし、それだけでは顧客に価値が伝わるとは限らない。

なぜその技術が生まれたのか/どんな課題を解決するのか/その技術によって、顧客や社会はどう変わるのかなど、
こうした背景まで掘り下げることで、単なる「技術」が、自社ならではの価値として見えてくる

「何を持っているか」ではなく、「それをどう活かし、どんな価値に変えるのか」
これからの企業には、その視点がますます求められる。

地域企業にとって、「培ってきたもの」は大きな資産になる

この変化は、地域の企業にとっても重要な意味を持つ。

例えば沖縄にも、特許や技術だけでは測ることのできない、さまざまな無形の価値が存在する。

地域とのつながり/独自の文化/食文化/素材/歴史/伝統/工芸/
自然環境/人との関係性/島ごとに異なる暮らしや風土
など、

これらは、単なる「地域の魅力」ではない。
地域の中で長い時間をかけて蓄積してきた、他にはない無形の資産でもある。

例えば、沖縄で長年商売を続けてきた企業が持つ「地域との信頼」は、短期間でつくれるものではない。

土地のことを知っている。
地域の人たちとの関係がある。
その土地ならではの文化や素材を知っている。

そうした積み重ねそのものが、企業の競争力になる可能性がある。

だからこそ沖縄企業には、
「自分たちにとっては当たり前だが、他者から見ると価値のあるもの」
を、改めて見つめ直すことが必要だと考えている。

「らしさ」を経営の中心に置く

これからの企業経営では、「どんな資産を持っているか」だけでなく、
「それをどう活かし、どんな価値に変えるのか」がますます重要になっていく。

そのためには、まず、自分たちは何者なのか。
何を大切にし、どんな価値を社会に提供する企業なのか、という問いに向き合う必要がある。

何を大切にしてきたのか。
何を培ってきたのか。
誰に、どんな価値を届けてきたのか。

知財、ブランド、ノウハウ、顧客との関係性などを、それぞれ別々の資産として捉えるのではなく、
「自分たちらしさ」を軸に、一つの価値として捉え直す。

それを経営の中心に置いていく。
それが、私たちの考えるデザイン経営である。

「知財・無形資産」の流れから見えてくる3つの知見


【知見1】 培ってきたものは、活かしてこそ価値になる

技術や特許、ノウハウ、ブランドなどは、それ自体が価値を持つ。しかし、事業や社会の価値につながらなければ、本当の競争力にはなりにくい。
大切なのは、「何を培ってきたか」だけではなく、「それをどう活かすか」。

【知見2】 「当たり前」の中に、企業独自の価値がある

長年培ってきた技術、顧客との信頼、地域とのつながり、企業独自の文化。
自分たちにとっては当たり前のものでも、外から見ると、それは簡単には真似できない価値かもしれない。
だからこそ、自分たちの「当たり前」を、一度外から見つめ直すことが必要になる。


【知見3】 デザイン経営は、「らしさ」を見つけ、育てる

デザインは、企業の中にある無形の価値を発見し、整理し、意味づけし、社会に伝わるかたちへと整えてく。
そして、その「らしさ」を商品やサービス、ブランド、組織、事業へとつないでいく。

「培ってきたもの」を「企業らしい価値」へ変え、未来につなげていく。
そこにデザイン経営の役割がある。

「培ってきたもの」の中にある価値を見つけ、「企業らしい価値」として育てていく。
そこにデザイン経営の役割がある。


結び ― これから企業に問われるのは「何者なのか」

今回の政府の要綱が示しているのは、知財やブランドなどの無形資産を、企業の成長につなげていく方向性である。

一方、「日本の特許競争力、G7で最低」という記事が示したのは、技術や特許を持っているだけでは、競争力につながらないという現実だった。

2つの記事から見えてくるのは、
何を培ってきたか」から「そこにどんな価値があるのか」へ、企業経営の変化である。

そして、その先にはもう1つの問いがある。
「そもそも、自分たちは何者なのか。何を目指し、どんな未来をつくりたいのか」

企業の「らしさ」は、ロゴやキャッチコピーだけでつくるものではない。

これまで何を積み重ねてきたのか。何を大切にしてきたのか。
誰に、どんな価値を届けてきたのか。

技術、ノウハウ、ブランド、顧客との信頼、地域とのつながり、企業文化。
その一つひとつの積み重ねが、その企業にしかない「らしさ」をつくっている。

デザイン経営とは、その「らしさ」を発見し、磨き、社会に届け、企業の未来につなげていくことなのだと思う。

私たちは、「培ってきたもの」を一緒に見つめ直し、
そこにある価値を、これからの競争力へ変えていきたい。

何を持っているかではなく、何を培ってきたのか。
そして、それを、これからどんな価値に変えていくのか。

その問いに向き合うことから、企業の未来がはじまる。