2026/06/10

沖縄の「鉄」を支えるサーキュラーエコノミー── 拓南グループ工場見学会リポート

鉄資源の回収から鉄筋製造までを地域内で循環させる拓南グループ。その工場見学会を通して見えてきたのは、沖縄におけるサーキュラーエコノミーの具体的な実践だった。本記事では、家電・自動車リサイクルから電炉製鋼までの現場を取材し、そこから得られた3つの知見を紹介する。


沖縄県内で鉄資源の循環を軸としたサーキュラーエコノミー(循環型経済)を推進する拓南グループが、2026年2月13日、毎年恒例の工場見学会を開催した。

拓南グループの原点は、1953年12月に那覇市壺川に設立された拓南商事株式会社にある。沖縄戦では、日米両軍によって約300万トンもの鉄が投入されたと言われる。戦後、その膨大な鉄くずを回収し、輸出することで外貨を得て沖縄の復興を支える。そこから拓南グループの事業は始まった。

拓南グループが掲げる社是「拓鐵興琉(たくてつこうりゅう)」は、この創業精神を象徴する言葉である。
「鉄を拓(ひら)いて琉球を興(おこ)す」
鉄鋼業を通じて沖縄の発展に貢献するという理念だ。

現在、拓南グループは鉄資源のリサイクルを軸に、再資源化、製造、加工、販売までを担う企業グループ(拓伸会)へと成長している。そのグループ全体で取り組んでいるのが、鉄資源の循環を軸にした沖縄型サーキュラーエコノミーだ。
毎年開催されている工場見学会(2月・5月)では、その取組の一端を実際の現場で見ることができる。
今回の見学会では、家電や自動車のリサイクル工程から、鉄スクラップが電炉で溶解され鉄筋へと生まれ変わる製造工程までを見学した。

本記事では、その見学内容を紹介するとともに、現場から見えてきた沖縄におけるサーキュラーエコノミーの実践について、いくつかの知見を整理する。

廃プラスチックから「コマ」をつくる体験ブース
「コマ」の原料となる廃プラスチック
廃プラスチックからつくったアイテム
拓南製鐵が製造する鉄筋「T-コン」の見本

拓南商事 ── 家電&自動車リサイクルの最前線

最初の見学先は、拓南商事株式会社の家電リサイクル工場(家電のリサイクル工程はメーカーからの委託業務であるため、写真撮影禁止エリアとなっている)。

2001年に施行された家電リサイクル法に基づき、一般家庭や事務所から排出されたエアコン、テレビ(ブラウン管、液晶・プラズマ、有機EL)、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・衣類乾燥機といった特定家庭用機器廃棄物から有用な部品や素材を回収し、資源として再利用する。
国により各商品のリサイクル率が定められているが、拓南商事では各商品とも国の基準より8.0%を上回るリサイクル率(2025年度実績)で再資源化している。

エアコン ── 沖縄特有の塩害と向き合う解体技術

エアコンの法定リサイクル率は80%。これに対し、拓南商事は2024年度実績で90.3%という高いリサイクル率を達成している。沖縄は塩害が激しく、室外機が錆びてネジが取れないなど、本州とは異なる困難が伴う。かつては手作業で解体していたが、現在は重機の力を使って解体を行うよう改善されており、沖縄の環境に適応した独自の工程が組まれている。

特に重要なのが冷媒フロンの回収である。フロンガスは大気に放出すると温暖化の原因となるため、専用機器で完全回収し、県内施設で無害化処理される。

テレビ ── レアメタルを確実に回収する手解体

テレビの解体は、ほぼすべてが手作業だ。基板には金や銀などのレアメタルが含まれているため、丁寧な解体によって資源を回収する必要がある。
現在主流は液晶テレビだが、今でも年間2,000台のブラウン管テレビが持ち込まれる。その場合はラインをブラウン管仕様に切り替えて対応する。さらに近年は、有機ELテレビにも対応した工程が整備されている。リサイクル率は薄型テレビで76.1%、ブラウン管テレビで76.6%。

洗濯機 ── 手解体と全自動破砕の二段階工程

洗濯機のリサイクル工程は、まず手作業でモーターを回収することから始まる。また、衣類が片側に寄った際の振動を抑えるために「塩水バランサー」という部品が使われている。これは水ではなく塩水を入れることで、腐敗や凍結を防ぐための工夫だ。
このように、洗濯機は細かな部品まで一つひとつ分解し、資源として回収していく。
その後、家電専用の破砕機にかけ、磁力で鉄を回収、電気の力で銅などの非鉄金属を回収、風の力でゴミとプラスチックを分けるという、ほぼ全自動の選別ラインへと進む。
回収されたプラスチックは自社で細かく処理した後、県外のリサイクル業者へ送られる。リサイクル率は全自動洗濯機で91.4%、ドラム式洗濯機で91.9%に達している。

冷蔵庫 ── 冷媒フロンも確実に処理

冷蔵庫のリサイクル率は78.7%。エアコンと同様にフロンガスが使われており、冷媒フロンを回収・無害化処理が行われている。

自動車──リサイクルからアップサイクルへ

家電に続いて見学したのは、自動車のリサイクル工程だ。2005年に施行された自動車リサイクル法に基づき、拓南商事では同時期から自動車リサイクルを開始している。

自動車リサイクルは、主に4つの処理を行っている。
第1に、エアバッグの処理。エアバッグは火薬で作動するため、未作動のままカーシュレッダーにかけると爆発の危険がある。そのため、事前に専用のスイッチでエアバッグを作動させてから解体に進む。
第2に、カーエアコンのフロン回収。家電と同様、専用の機器にて回収する。
第3に、作業員が1台ずつ目視で確認し、スプレー缶やライターなどの危険物を取り除く。次に、エアドリルを使って穴を開け、エンジンオイルやブレーキオイルなどの液体を回収。電気ドリルではなくエアドリルを使用するのは、電気と液体の組み合わせによるショートや火災のリスクを避けるためだそう。バンパーも作業員が手作業で取り外し、プラスチックのリサイクルに回す。その後、重機(マルチ解体機)を使って人の手ではできない力で車体を解体していき、最終的にカーシュレッダーで破砕され、鉄スクラップとして拓南製鐵へ送られる。
最後に、シュレッダーダスト(プラスチック類)の処理。車のシートなどから出るプラスチック類は、RPF(固形燃料)に加工され、拓南製鐵の助燃剤(還元剤)として活用されている。廃棄物すらも製鐵工程のエネルギー源として循環させる、拓南グループならではの連携だ。

アップサイクルの取組

拓南商事では、マテリアルリサイクルやサーマルリサイクルにとどまらないアップサイクルの取組も行われている。同社が回収した車のシートベルトからバッグや工具入れ、エプロン、ティッシュケースなどが製作されている。
また、車のサイドガラスは、琉球ガラス村とのコラボレーションにより「mado」というガラス製品(グラス・タンブラー・プレート等)に生まれ変わっている。
廃棄物に新たな価値を吹き込むこれらの取組は、サーキュラーエコノミーの象徴的な事例だ(就労継続支援B型「スクラム」/琉球リンケージ事務局/RGC株式会社<琉球ガラス村>等、他企業・団体と連携して制作・販売)。

シートベルトと沖縄市の伝統工芸・知花花織のコラボバッグ(就労継続支援B型「スクラム」製作)
シートベルトからつくられたバッグ(就労継続支援B型「スクラム」製作)
車のサイドガラスと琉球ガラス村(RGC株式会社)とのコラボグラス「mado」

拓南製鐵 ── スクラップから鉄筋へ

見学の後半は、拓南製鐵株式会社の製鐵工場へ。拓南商事が回収・選別した鉄スクラップは、ここで電気炉により溶融され、新たな鉄筋として生まれ変わる。

製鋼工場 ── 電気炉で溶かす

拓南製鐵では、月に約14,500トンの鉄スクラップを使用して鉄筋を生産している。原料のほぼ99%が鉄スクラップで、残り約1%がコークスやシリコンマンガン、石灰などの副資材。電力料金が安い平日夜間と土日祝日に操業することで、コストを抑えながら生産を行っている。

電気炉にスクラップを投入するバケットは2回に分けて投入され、1チャージあたり約71トン。アーク放電により約50分かけて溶融する。この工程では約2万キロワットアワーという電力量を使用するが、これは4人家族の約4年分の電気使用量に相当するというから驚きだ。

溶融した鉄は受鋼台車の取鎉に流し込み、成分調整を行った後、連続鋳造設備(CCM)で「ビレット」と呼ばれる半製品(縦13.5cm×横13.5cm×長さ10.5m)に成形される。

なお、製鋼時に投入される石灰が不要成分と結合して生じる「スラグ」も廃棄物とはせず、沖縄県のリサイクル資材認定(ゆいくる材)を取得した製品として、路盤材などの土木資材に活用されている。鉄筋だけでなく、副産物までも資源として循環させる徹底ぶりだ。

圧延工場 ── ビレットから鉄筋へ

製鋼工場でつくられたビレットは、圧延工場で加熱炉(カロリー)により再び高温に加熱された後、最大18基の圧延機を通過し、上下・左右のロールで縦横縦横と繰り返し伸ばされ、最終的に鉄筋として完成する。生産するサイズによって仕上げの圧延機が変わる。生産効率を上げるため、「ツインスプリッター」という8の字型に成形した後に真ん中から2本に切り分ける方法も採用されている。

約900度で圧延された鉄筋は、冷却床で200度まで冷却された後、注文の長さに応じて切断される。圧延工場の操業は少数精鋧で、拓南製鐵の社員が6名、協力企業が4名の計10名体制で生産を行っている。なお、圧延工程で使用する冷却水は、ろ過して再利用する循環システムを採用しており、水資源の節約にも配慮されている。

沖縄の建設を支える地域密着の製鐵所

完成した鉄筋は、製品倉庫に常時約15,000〜18,000トンの在庫を持ち、沖縄本島の建設現場や鉄筋加工業者、宮古・石垣などの離島にも出荷されている。沖縄県内で使用される鉄筋の約80%(!)が拓南製鐵の製品で、県内唯一の鉄筋メーカーとして沖縄の建設を支えている。

特筆すべきは、拓南製鐵が国内のメーカーの中で最も多い種類の鉄筋を製造しているという。他県では5〜6社が分業して生産するところ、拓南製鐵では全種類を自社で製造。生産能力も沖縄の需要の3〜4倍を有し、一部のビレットは台湾など海外にも輸出されている。

「鉄資源がある限り何度でもリサイクルできる」──これが電炉製鋼の最大の強み。
建物を解体して出た鉄くずを集め、溶かし、鉄筋にし、また建物をつくる。何十年後にその建物が解体されれば、再び鉄くずになり、また新たな鉄筋として復活する。この半永久的な循環こそが、拓南グループが体現するサーキュラーエコノミーの真髄頂だ。

しかも、沖縄県内で回収から製造までを完結させることには、CO₂排出の面でも大きな意義がある。県外から船で鉄筋を運び込む場合、港からさらに各現場への輸送が必要となる。拓南製鐵では工場から直接県内の現場に納入できるため、輸送に伴う環境負荷が大幅に削減される。島しょ県である沖縄だからこそ、地域内で資源を循環させる意義は一層大きいのだ。

拓南グループ工場見学会が示す3つの知見


【知見1】 地域に、国の基準を上回るサーキュラーエコノミーの実践が存在する

拓南商事の家電リサイクル率は、エアコン90.3%をはじめ、全ての品目で国が定める法定基準を上回っている。しかも、塩害という沖縄特有の困難な条件のもとで、この数字が達成されている点は特筆に値する。また、拓南製鐵の電炉製鋼は、鉄鉱石と石炭を使う高炉製鋼と比べてCO₂排出が大幅に少なく、グリーンスチールとして世界的にも注目されている製法。沖縄県内にこれほど高い水準でサーキュラーエコノミーを実践している企業がすでに存在している。地域の資源循環の可能性を考えるうえで、重要な事例の一つといえる。


【知見2】 「回収から製造まで」を担う一貫体制が、地域循環を支える

拓南グループの特徴は、拓南商事による鉄スクラップや家電・自動車の回収・解体から、拓南製鐵による製鋼・鉄筋製造まで、資源循環の入口から出口までをグループ内で担うことができる点にある。
さらにその循環は単線的ではない。自動車のプラスチックは製鐵工程の助燃剤として活用され、製鋼時に発生するスラグは土木資材として再利用される。また、シートベルトがバッグに、サイドガラスがガラス製品へと転換されるなど、多様な素材が新たな価値へと再生されている。
こうした重層的な資源循環の仕組みは、島しょ県である沖縄において、物流コストや環境負荷の低減にもつながる地域型循環モデルといえる。


【知見3】 サーキュラーエコノミーの「見える化」が理解と共感を生む

拓南グループが毎年工場見学会を開催し、その取組を広く公開していることにも重要な意味がある。サーキュラーエコノミーは、その仕組みが見えなければ価値や意義が伝わりにくい。
工場の中でどのような工程が行われ、どのような技術によって資源が循環しているのかを可視化することで、県民の理解や関心が高まり、地域内での新たな連携や参加の可能性が生まれる。
こうした「見える化」の取組は、資源循環を地域社会全体で考えていくための基盤づくりにもつながる。


「拓南製鐵株式会社 会社案内」より

拓南グループの取り組みは、サーキュラーエコノミーが理念ではなく、すでに沖縄の産業として成立していることを示している。


DIOはこれからも、地域で資源循環に取り組む企業の活動を「見える化」し、その価値を社会に伝えていきたい。
それが、沖縄におけるサーキュラーエコノミーの実践を広げていく一歩になると考えている。