2026/04/21

「課題」を「お題」に変える——kapokとPALLELUJAH(パレルヤ)にみる沖縄発サーキュラーデザインの萌芽

沖縄市コザを拠点にリノベーション建築を手掛ける株式会社kapok(カポック)。代表の岡戸大和(おかど・やまと)さんを中心に、グラフィックデザイナーのへんなゆうさん、カメラマンの萩康博(はぎ・やすひろ)さんの3人が結成したユニット「PALLELUJAH(パレルヤ)」が、いま静かに注目を集めている。

©PALLELUJAH

廃棄される木製パレット(荷物を載せる時に使う荷役台)を起点に、ベンチ、額縁、コンポスト、さらにはストリートファニチャーまで——彼らの活動は、いわゆる「課題解決」の文脈とは一線を画す。「課題」を「お題(大喜利)」に読み替え、つくる過程そのものを街に展開していく。その姿勢の先に、沖縄ならではのサーキュラーデザインの可能性が見えてくる。

©PALLELUJAH

kapokという土壌——「みんな職人、ぜんぶ資材」

kapokは、岡戸さんが2016年に設立したリノベーション特化型の建築会社。2008年に横浜から沖縄に移住してきた岡戸さんは、沖縄で初めて女性として一級建築士となった渡久地克子(とくち・かつこ)さんに師事し、“三代目大宜味大工”を名乗り始める。

渡久地克子さん(写真右)と岡戸大和さん(同左)/kapok提供

「沖縄に歩留まりを残せ」——渡久地さんから受け継いだこの言葉が、現在も通奏低音的に岡戸さんの全ての活動に流れている。この“歩留まり”とは、「次の世代に遺るもの」を意味する。建築の仕事を通じて、沖縄に本当に根づくものをつくりたいという志だ。

(左)教会で使わなくなった木の扉を    →
/kapok提供
(右)新規開店する洋菓子店の壁面に使用
/kapok提供
北中城村の「羊羊 YOYO AN FACTORY」の内装や調度品手配もkapokにて担当/kapok提供

kapokのスローガンは「みんな職人、ぜんぶ資材」。デザインから施工管理、解体、大工作業、内装まで一括して手掛ける体制を取り、コザの中心市街地で半径200m以内の物件約30の内装にかかわるなど、街の風景を文字通り自らの手で更新している。

kapokが内装を手掛けた沖縄市のコーヒー店「AMBER HOLIC.」/kapok提供

シャッター商店街に新たな息吹を吹き込む「星屑工務店」としての活動や、コザのまちづくりの中核を10年以上にわたって担ってきた実績が、PALLELYJAHの活動基盤となっている。

PALLELUJAH——「課題」を「お題」に変えるチーム

「PALLELUJAH(パレルヤ)」は、パレット(pallet)とハレルヤ(hallelujah)を掛け合わせた造語。木製パレットの”第二の人生”を祝福するというエールのようなユーモアが、そのまま活動の本質を表している。

3月20日、南風原町の中村活版印刷所にて行われたイベントでPALLELUJAHの3人が登壇

メンバーは3人。建築・施工を担う岡戸さん、グラフィックデザインで価値の可視化を担うへんなさん、そして、写真・映像で活動の風景を切り取る萩さん。大工、デザイナー、カメラマンという異色の組み合わせは、単に「つくる」だけでなく、「魅せる」「伝える」までを一気通貫で実現するための最小編成となっているのが興味深い。

廃パレットが開く可能性

沖縄は地政学的に、物流の構造的に、木製パレットが大量に入ってくる一方で、出ていくことが少ない。島に滞留し続けるパレットは、通常であれば廃棄物として処理されるが、処理をするにもお金が掛かり、社会問題となっている。PALLELUJAHはこの構造的な課題を、クリエイティブの「お題」として捉え直した

©PALLELUJAH

パレットをバラして得られる木材は、岡戸さんの手によって、額縁やベンチ、コンポスト、ストリートファニチャーなど多様なプロダクトに生まれ変わる。

©PALLELUJAH
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さらに、最近では、その端材が薪として活用され、沖縄県内のパン店や陶芸家の窯にも供給する活動もスタートさせている。パレット1枚から、プロダクト→端材→薪と、最後まで使い切る循環が生まれつつある

ライブ感のあるものづくり——ストリートファニチャーの事例

PALLELUJAHの活動が象徴的に表れたのが、2026年2月27日から3日間行われた、沖縄市工芸フェア「コザと工芸と私」での取組だ。パレットからストリートファニチャーを制作し、商店街の中でライブ的に組み上げた。

©PALLELUJAH
©PALLELUJAH

完成後、商店街内や国道330号線沿いで道路拡張工事により歯抜け状態になった空地スペースにベンチを運び込み、写真を撮影。その風景を行政関係者に見せたところ、「これはいい!」「すてきな取組」との反応があり、常設化の話が動き始めている。

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注目すべきは、このプロセスの全てが「実際にやってしまう」ことで成り立っている点だ。「コンサルタントがAIで生成したパースを提案するのではなく、廃材でプロトタイプを実際につくり、街に置き、住民が目撃し、ストーリーが共有される。この『リアルさ』こそが、行政や市民を巻き込む力になる」と、岡戸さんは語る。「計画に乗っていないものは、デザインではない——と言われることもある。でも、街の人はあそこにあなたたちが置いたな、と見ている。そのリアルさの中に当事者が生まれる」。

岡戸大和さん(左は萩康博さん)

シニアパレットばらし隊「ggg」——世代を超える循環

大量のパレットの解体作業を担う人材として浮上したのが、地域のシルバー世代だ。岡戸さんがコザのセンター自治会の会長にパレット活用の構想を話したところ、「俺がやる」と手を挙げた70代の先輩が現れた。その後、模合(沖縄の互助的な寄り合い)の場で会長からこの話が広がり、「センター自治会シニアパレットばらし隊(ggg:grandfather・grandmother ganjyu gang)」が結成された。この「巻き込む力」が岡戸さんの真骨頂だ。

センター自治会シニアパレットばらし隊(ggg)(©PALLELUJAH)
センター自治会シニアパレットばらし隊(ggg)(©PALLELUJAH)

バラしたパレットからプロダクトを生み、端材は薪としてパン店に届ける。対価は金銭ではなく「ぶつぶつ交換」——焼きたてのパンがコザに届く。この素朴な循環の中に、地域の居場所づくり、高齢者の出番づくりまでをも入れ込む岡戸さん。ここでも社会課題の解決をしていると考えるのではなく、岡戸さんにとってはただ“お題”をみんなで楽しく“料理”している感覚なのだそう。

「遊びの資材」という視座の転換

パレルヤの活動を支える思想の根幹には、ある視点の転換がある。

3人が最初のミーティングで盛り上がったのは、萩さんによると、「トイレットペーパーの芯」の話だった。

萩康博さん

子どもは使い終わった芯を「捨てないで」と言い、目を描いたり何かをくっつけたりしてワクワク工作をする。大人になった私たちは、いつからかそれを「ゴミ」と見なすようになってしまった。PALLELUJAHが目指すのは、その「捨てないで」という子どものまなざしを取り戻すこと。

©PALLELUJAH

廃材を「ゴミ」ではなく「遊びの資材」として見る。パレットを「廃棄物」ではなく「お題」として受け取る。いらないものを使ったから「こんなもんでしょ」ではなく、ワクワクしながら向き合う。岡戸さんは「廃材」活用を自身のこれまでになぞらえて、「自分自身もかつてはクズ人間だった。師匠に拾われてそのトイレットペーパーの芯のように第二の人生を歩んでいる」と笑う。レッテルや固定観念を外した時に見えてくる可能性——それはマルセル・デュシャンの「泉」が工業用便器をアートに変えたように、見立て1つで世界が変わるという信念に通じている。

©PALLELUJAH

「コザール」の構想——挑戦を応援する街のインフラ

PALLELUJAHの活動と並行して、岡戸さんはコザのパルミラ通り沿いに新たなスペースを立ち上げようとしている。その空間を「コザール(KOZAAR)」と名づけ、コザのポップアップスペースとして運営する構想だ。

「コザール(KOZAAR)」の内観(©PALLELUJAH)

コンセプトは「コザのバザール」。カフェをやってみたい人、展示をしたい人、離島ややんばるで活動するクリエイターが街に出てチャレンジする拠点として、あるいは、県外・海外との交流の接点として機能させる。私設の公民館のように地域の子どもの絵を飾り、シルバー世代の写真展を開き、異なるジャンルの人同士が掛け合わさる“化学反応の場”を目指す。

「コザは歴史的にも挑戦する街であり、応援する街。自分が応援された側として、今度は次の挑戦者を応援したい」——岡戸さんのこの言葉は、PALLELUJAHの活動が単なるプロダクト制作ではなく、人と場と経済が循環する「まちの仕組みづくり」であることを示している

PALLELUJAHが示す3つの知見

【知見1】 課題を「お題」に変換する視座の転換

社会課題解決の場面では、しばしば他地域の事例を参照し、それを自分たちの地域にスライドさせようとする思考パターンが生まれがちだ。PALLELUJAHの取組はそれとは異なる。「自分たちのエリアだからこそのザワザワ」を起点に、課題を深刻なまま扱うのではなく、「大喜利のお題」として楽しく引き受ける。この転換が、当事者の参加ハードルを劇的に下げ、予想外の巻き込みを生んでいる。サーキュラーデザインにおいて、「楽しさ」は単なる付加価値ではなく、循環を起動させるエンジンとなる。


【知見2】 「つくる・魅せる・伝える」の三位一体

岡戸さん(大工/建築)、へんなさん(グラフィックデザイン)、萩さん(カメラマン)の3人構成は、プロトタイプの制作、デザインによる価値の付与、ビジュアルでの発信を同時に行える最小チームだ。パレットでつくったベンチに、へんなさんがグラフィックを載せれば価値が跳ね上がり、萩さんがそれを撮影すれば行政やメディアなど“人”を動かす材料になる。「圧倒的な活動量を可視化して、ザワザワを起こす」——この戦略は、地域のクリエイティブ・プラクティス(アーティストやデザイナーが探究に基づき、自身の創作活動(実践)を展開するプロセス)の1つのモデルとなり得る。


【知見3】 島しょの物流構造を逆手に取るサーキュラーの仕組み

沖縄は島しょ県であるがゆえに、物資が入る一方で出ていきにくいという構造を抱えている。パレットの滞留はその象徴だ。しかし、PALLELUJAHはこれを逆手に取り、滞留するパレットをプロダクト、さらには、資材、教材へと多段的に活用する仕組みを構想している。行政の建築標準仕様に廃材利用を組み込むという岡戸さんのビジョンは壮大だが、額縁が1万円以上で販売され、物流会社からはオールパレット内装のレストラン設計の依頼が舞い込むなど、経済としての手応えも出始めている。「沖縄の建材の1%でも県内のあるものでまかなえるようになったら、経済へのインパクトは計り知れない」——その言葉は、サーキュラーエコノミーが、理念ではなく、島の生存戦略であることを物語っている。

パレットで作られた額縁

おわりに——廃材に「ハレルヤ」を!

PALLELUJAHの活動はまだ始まったばかり。「公式のDMすらパレットの端材に手書きでつくるような段階」とへんなさん。しかし、そのゆるさと熱量の共存こそが、この取組の本質かもしれない。

へんなさん

さらにへんなさんは、「課題を前にしたとき、怒ったり文句を言ったりするのではなく、盛り上がってしまう方向に持っていく。かわいいとか、格好いいとか、うれしくなっちゃう方向性の中に苦しさや悲しさを織り込んで、その先にうっかり課題が解決している。それは生き方の問題なのかもしれない」と語る。

PALLELUJAHの3人は、「ぜひ、大喜利のお題を持ち込んで」という。パレットに限らず、自分の周りの「捨てられそうなもの」「困っていること」をお題として投げ込めば、それ自体が新たな物語の起点になる。お題が集まる場所になるだけでも、つながりが生まれ、日常が少しだけ変わる。

廃材に「ハレルヤ」を。その祝福は、パレットだけでなく、見立てを変える全ての人に注がれている。