2025/12/12

「『台灣設計展』にみる“地域×デザイン”の力――沖縄の地域産業への示唆」〜産業・暮らし・文化をつなぐデザインの仕組みをどう実装するか〜

台湾では毎年10月に、デザインをテーマにした展示イベント「台灣設計展」を開催している。今年は10月10日から10月26日までの17日間、台湾中部の彰化(しょうか)県で初開催され、かかわったデザイナーは700名以上、1,640社の企業と600の地域店が参加するという史上最大規模の展示となった。

台灣設計展2025「彰化行(((CHANGHUA)))」概要

期間2025年10月10日(金)〜10月26日(日)
時間日~木10:00〜18:00/金土10:00〜20:00
会場彰化展示エリア
県立図書館、彰化芸術館、彰化美術館、彰化市武徳殿、中興莊眷村文化園区、高賓閣
鹿港展示エリア
鹿江国際小中学、アジア太平洋鹿港リゾート村集会堂、鹿港公会堂
彰南展示エリア
田尾公路花園、彰化国際展覧センター
指導経済部、彰化県政府
主催経済部産業発展署、彰化県政府各区所
実行台湾デザイン研究院、衍序規劃設計顧問有限公司
共催経済部産業発展署、環境部資源循環署、国営台湾鉄路股份有限公司

本イベントは、デザイン業界の注目を集めるだけでなく、開催地域の文化的背景や魅力に深く触れられる場となっている点、また、地域の文化的なアイデンティティや誇りを高め、都市ブランドを確立していくことで地域の魅力を育み、戦略的にデザイン思考を組み込みながら開催都市の知名度を高めている点で特筆すべき取組となっている。

毎年、公募で選出された台湾各地の自治体と、台湾の中央政府が共催する「台湾デザイン展(台灣設計展)」は、デザインによって都市ガバナンスのエネルギーを体現するイベントとなっている。つまり、回を重ねるごとに台湾の各エリアに都市ブランドが確立し、徐々に台湾全土的に広がっていくことになる。今年で23年目を迎え、これまでのべ3,200万人が来場する、国家的イベントに成長している。

今回の舞台となった彰化県は台湾中部に位置し、山、海、川、平野を擁する。300年以上にわたる歴史の中で、農業、漁業、畜産、工業、エネルギーといったさまざまな産業の中心地として発展し、現在は台湾における生産と流通の重要な拠点となっている。

台湾南北を通る重要な物流網、台湾と世界をつなぐ戦略拠点としての役割を担う彰化県は、クリエイティビティと機動力を備えた企業型の都市でもある。そのことから、2025年度の「台灣設計展」は、「彰化行」をテーマに、彰化県の「彰化展示エリア」「鹿港展示エリア」「彰南展示エリア」の3エリアを舞台に、「生産地としてのランドスケープ、物流と流通、多様な産業」を基盤としたここ100年を象徴する展示となった。

彰化展示エリア

県立図書館、美術館、武徳殿を中心に、中興莊眷村文化園区、高賓閣と連携し、彰化の製造力が展示された。

展示の内容もさることながらその手法が際立っていたのが、美術館での「製造行—八角產業學」と題した産業紹介のエリア。自動車・自転車の部品、水回りの金具等の製造業を、実際の製品やパーツを交えながら、そこにデザイン視点を施すことで、ただ情報として伝えるだけでなく、「体験」的な価値を創出していた。

例えば、自動車部品のバックミラーの展示エリアでは、アルミのフレームを組み合わせた無機質なツリーのようなオブジェに、バックミラーを点在させてディスプレイ。そのミラー部分に見学者自身の姿を映し込むことで見学者の“体験”を演出することに成功している。

また、自転車部品のエリアでは、自転車のパーツを複数整列させることで“圧巻”な雰囲気を演出し、さらに工具等を散りばめることで、来場者が自転車工場に足を踏み入れたような“ワクワク感”を引き出していた。

そして、彰化県で昔から食べられていた「食」などを紹介する「食文化」、行事や祭事などを3Dのホログラムで紹介するなど、観覧する人が「想像しやすい」形で展示をされていたのも印象的だった。

美術館の5階部分では「升級行——設計創新擴大器」とタイトルを打ち、台湾の中小企業がデザインを導入することで生み出した新たな成果(価値)を総括。デザインを加えることで、「增加價值」(付加価値の向上)、「產出新產品」(新製品の創出)、「新增就業人數」(雇用人数の増加)、「國際合作項數」(国際協力プロジェクト数の増加)、「成立新公司家數」(新会社の設立件数)、「成立設計相關組織」(デザイン関連組織の設立)、「建立新品牌」(新ブランドの立ち上げ)、「獲獎成功」(受賞の成果)、「專利」(特許の取得)の9つの効果につながることを提示。商品とデザインの関係性を端的に表記している点は、TDRIの存在価値そのものを表現していた。

また、「台灣設計展」は街そのものも変える。「造彰化、tsō ChangHua 街道實驗計畫」では、安全で親しみやすい街路環境の構築、往来する人々の歩行の利便性と楽しさを追求することを目標に、歩道や道路にカラーやイラストを施して街を彩ったほか、「小西有囍」では、夜の路地に光のアートを取り入れて、通行客の笑顔を生んでいた。

ほかにも、「鹿港展示エリア」は、鹿港の豊かな文化を中心に、鹿江国際小中学、アジア太平洋鹿港リゾート村集会堂、鹿港公会堂それぞれの会場で、地域文化、信仰、生活の記憶をテーマに、そして、「彰南展示エリア」は、田尾公路花園と彰化国際展覧センターを結び、境界のないオープンな展示エリアとして彰南の多様な都市景観とデザインの力をテーマに、展示が行われた。

鹿港展示エリア
鹿港展示エリア
彰南展示エリア
彰南展示エリア

「台灣設計展2025『彰化行(((CHANGHUA)))』」は17日間の開催期間中、「台灣設計展」史上過去最高となる783万9,000人が来場、およそ80億元(現在のレート:1台湾元が4.975円で計算した場合、およそ398億円)の経済効果を生み出し、97%の来場者満足度を記録するなど、大成功のうちに幕を閉じた。

週末には彰化駅前と会場を結ぶシャトルバスに長蛇の列ができ、老若男女が笑顔で並ぶ光景が見られた。デザインが人を惹きつけ、街を動かすエネルギーとなっていることを体感した瞬間だった。

台湾と同様に、沖縄も小さな島嶼であり、中小企業・小規模事業者が地域経済の主軸を担っている。この構造は彰化と驚くほど似通っており、デザインを地域産業の中核に据える可能性を感じさせる。

同時に、沖縄では2024年度末に「おきなわブランド戦略」を発表。今後、各領域で本質的な価値を伝えていかなければいけないフェーズに入る。そこで大切になるのは、「らしさ」にデザインをどう入れていくか、という視点。その企業らしさ、その地域らしさをどのようなデザインで見せていくか。沖縄の動きも楽しみでならない。


【知見1】展示は「地域を翻訳する」デザインである

「台灣設計展」は、産業を題材にしながらも、その背景にある“地域の物語”を体験として再編集している。これは、地域の資源を「展示=翻訳」のプロセスを通じて新たに価値化する仕組みそのもの。沖縄でも、地域独自の素材を“語る展示”に変換できるかが鍵となる。


【知見2】デザインは「社会変容のプラットフォーム」である

台湾ではデザインが産業支援を超え、教育・都市・交通・福祉を結ぶ社会実装の基盤となっている。沖縄においても、経済、教育、観光それぞれとデザインをかけ合わせることで、沖縄の変容を起こすきっかけとしていく。


【知見3】“らしさ”の再構築は地域ブランドの中核となる

台湾の自治体が“地域の誇り”を再発見しブランド化しているように、沖縄も「文化的自立×デザイン」を推進することで、持続可能な地域経済を形成できる。DIOは台湾の「文創」をリスペクトしながら、沖縄独自の「沖縄文創」を実現すべく、その翻訳者であり伴走者として貢献していく。


「台灣設計展」は来年、児童美術館などを擁する桃園での開催が決定している。「台灣設計展」が示しているのは、デザインが地域の姿そのものを変える力である。沖縄では、この力をどのように社会へ実装していけるだろうか。

私たちDIOは、台湾に学びながら、共創パートナーとともに沖縄でのデザインの可能性を探る歩みをこれからも進めていく。