12月4日(水)〜12月6日(金)の3日間、那覇市で開催された「Okinawa Open Days 2024」(※)では、テクノロジーとアイデアを共有するさまざまなセッションが行われました。初日のセッションでは、財団法人台湾デザイン研究院(TDRI)のIndustry Foresight SectionチームリーダーであるVivian Wuさんと、MITメディアラボと台北科技大学(Taipei Tech)が共同運営する「City Science Lab @Taipei Tech x MIT」のデータ分析・応用部門ディレクター、Roy Yu-Ta Linさんが登壇。「スマートシティとサーキュラーデザインへの取り組み」をテーマに講演しました。
TDRIは、2020年に設立された台湾の政府系デザイン振興機構(前身は2003年に設立された台湾デザインセンター)。デザイン主導のイノベーションを通じて台湾の国際競争力を高め、持続可能な社会と産業の発展促進、ライフスタイルの向上を支える活動を推進しています。デザイン人材の育成、企業とデザイナーのマッチング、デザインアワードの運営や公共・産業・社会デザインプロジェクトなど、その活動は多岐にわたります。
※Okinawa Open Days:「ユンタクしながらジンブンを出そう テクノロジーとアイデアの集結」をキーコンセプトに、2013年から毎年12月に開催されているイベントで、今年で12回目を迎えます。
TDRIが取り組む「都市デザイン力指標」
Vivianさんはまず、TDRIの成り立ちを説明し、「選挙の美学」「台湾電力の美学」「都市の美学」など多岐にわたるプロジェクトの概要を紹介しました。これらのプロジェクトで共通しているのは、「デザイン思考」を施し、そこからアウトプットされるデザインを通して使用者目線で使いやすくすること。TDRIのプロジェクトには必ずこの視点が入るからこそ、台湾人のみならず世界の評価を得ているのだと実感しました。
さらに、TDRIが近年注力している「City Design Index(都市デザイン力指標)」についても解説。都市のデザイン力を評価するためにTDRIが開発した「都市デザイン力指標」は、都市が持つデザイン力を「デザイン開発戦略」「デザイン活動」「デザインの成果」の3つの要素から測定し、各都市の経済競争力、社会的幸福感、環境の持続可能性などへの影響を評価します。
現在、台湾は国家戦略「スマート台湾2030」のもと、AI技術や持続可能なデザインを活用してスマートシティ化を推進しています。この戦略では、公共サービスの向上や交通管理、環境保全など、多岐にわたる分野で技術革新を目指しています。
Vivianさんは、「AI照明システム」や交通安全を向上させる信号制御、グリーン・エネルギー住宅を取り入れたサステナブル・シティなどの事例を挙げ、「Design for Earth/Design for Sustainability」という象徴的な言葉で締めくくりました。
都市データの活用による課題解決の可能性
続いて、Royさんは「URBAN DATA FOR URBAN INNOVATION」と題し、都市データの活用による課題解決の可能性について講演。具体例として、人流データを活用して台北市内の課題エリアを特定し、デイケアセンターの最適な設置場所やその適切なキャパシティを算出する取り組みを説明。これにより、無駄な投資やキャパオーバーになる事態を避けるなど、都市データの活用法を紹介しました。
また、コワーキングスペースやシェアバイクの利用データを活用し、事業の発展性を予測する方法も提示。都市データは社会課題の解決だけでなく、ビジネスシーンへの応用可能性も秘めていると強調しました。
共創社会でより重要になる「デザイン思考」
講演後、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社の佐藤久信氏を交えたパネルディスカッションが行われました。
Vivianさんは、「現況をどう定義するかが大事で、データやチームを活用して共創できる社会を目指したい」と表現。一方、Royさんは近年の生成AIの状況を交えながら、「AI技術に頼りすぎるのは危険。AIの情報を基にそこにデザイン視点を入れて笑顔になれるまちづくりをすることで唯一無二の都市になる」と語りました。
ーーーーーーーーー<講演後のインタビュー>ーーーーーーーーー
講演後、インタビューをしたところ、実は2人とも今回が沖縄初訪問。Vivianさんは「沖縄県や民間企業と意見交換ができて感謝している。出展ブースも訪れたい」とコメント。Royさんは「セミナーのコンセプトに惹かれた。他の講演者とも交流し、将来のコラボレーションを期待している」と意欲を語りました。
TDRIが取り組むサーキュラーデザインの現在
Vivianさんは、TDRIが推進するサーキュラーデザインに関する取り組みについて、パイナップルの葉を活用した新しいビジネスモデルを紹介。手作業で行っていた繊維採取の作業を効率化する機械を開発し、衣服の製造や商品企画、販売に結びつけた成功例を挙げ、「小さなものからデザイン思考で再考することが重要」と述べました。
さらに、一般市民を巻き込む事例として、台湾のファミリーマートにペットボトル回収機を設置し、リサイクルを促進する仕組みを紹介。この取り組みでは、回収ごとにポイントを付与することでサーキュラーエコノミーへの市民参加を促進しています。
都市の「デザイン力」が経済、社会的幸福、環境の持続可能性に寄与する未来が到来!
改めてTDRIが開発した「都市デザイン力指標」について、「都市がデザインを導入する際、自らの都市デザイン能力を長期的に追跡し、適切なデザイン戦略を提案できるように、測定ができる客観的な指標システムを提供すること」とその目的を表現。
そして、「2023年には9つの構成要素と108の指標を提案し、台湾の22のエリアからのデータでテストし、その結果を日本の大会で発表しました。翌2024年には、各都市の異なる社会文化的背景に基づいて、6つの文脈と構成要素を提示し、指標の調整を実施。また、セブとサンディエゴではデモンストレーションを実施し、現在もさまざまな都市とも協力に関する協議を行なっていて、より多くの海外都市での利用を目指しています」とコメントしました。
最後に、台湾の社会課題について話が及び、Vivianさんは「少子化と高齢化が最大の課題。ビッグデータを活用して必要なサポートをしていくべき」と、Royさんは「都市データを使えば、植栽やインフラ整備などでWin-Winのまちづくりが可能」とそれぞれコメント。台湾の未来を見据えながら語る2人の姿は、とても熱意を帯びていました。
この「Okinawa Open Days」をきっかけに、今後、沖縄での都市データの活用、またそこに対するデザイン思考を取り入れた施策が広がっていくことが期待されます。DIOもその施策にかかわっていけるよう活動を続けてまいります。