2026年の「台湾デザイン展(台灣設計展)」は、台湾桃園国際空港を擁する桃園(とうえん)を舞台に開催されている。テーマは「FLOW」。空港を擁し、人やモノが行き交う桃園の「交通の流れ」。川や溜め池がつくる「水の流れ」。そして、AIやデジタル技術によって加速する「情報の流れ」。展示を巡る中で、私たちはこの言葉が、“地域のさまざまな営みをつなぐ視点”として使われていることを感じた。
中でも強く印象に残ったのは、AIの利便性だけでなく、その裏側にあるエネルギー消費まで可視化していた展示である。AIを使えば、環境対策や監視を効率化できる。一方で、AIを支える処理やデータの保存には電力が必要となる。便利なサービスの画面からは見えにくい「資源の流れ」をどう捉えるか。桃園の展示は、デザインを通してその問いを私たちに投げ掛けた。
台灣設計展2026「桃園流 TAOYUAN in FLOW」概要
| 期間 | 2026年9月24日(木)〜10月11日(日) |
| 時間 |
月〜木10:00〜18:00/金〜日・祝日10:00〜20:00 ※最終日(10月11日)は18:00まで。会場によって開館時間が異なる。 |
| 会場 |
青埔展区|
桃園会展中心、桃園市立図書館青埔智慧科技分館 中壢展区| 中原文創園区 衛星展区| 桃園市立美術館屋外空間、桃園市児童美術館、横山書法芸術館、Pyasanタイヤル文化館、大渓木芸生態博物館 全市連携| 市内各所でデザイン連携企画を実施 |
| 指導 | 経済部、桃園市政府 |
| 主催 | 経済部産業発展署、桃園市政府各局処 |
| 実行 |
台湾デザイン研究院、桃園市政府関係部局 文化局、青年事務局、都市発展局、観光旅遊局、環境保護局、水務局、智慧城鄉発展委員会、経済発展局、農業局、新聞処 |
※台湾デザイン展(台灣設計展)とは
毎年一度、公募で選出された地方都市で開催され、地域の産業イノベーションと都市文化の形成を促す大規模なデザイン展示イベント「台湾デザイン展」。2026年は初となる桃園市にて、9月24日から10月11日まで、18日間にわたって開催される。「桃園流 TAOYUAN in FLOW」をテーマに700名を超えるデザイナー、1,600社以上の企業が参加。台湾桃園国際空港を擁し、台湾の玄関口である桃園市の魅力を可視化している。

地域を形づくる「水」と「時間」
桃園を知る上で、展示の土台となっていたのが「水」の存在だ。川や池、水路と人々の暮らし、農業や工業との関係が、地図や資料を通じて紹介されていた。水は地域を支える資源であると同時に、「産業と環境をどう両立させるか」という課題にもつながっている。






水を巡る展示では、工業用水、農業用水、再生水という異なる水の使い道も示されていた。桃園の地形や水利の歴史をたどることで、現在の産業や暮らしがどのように形づくられてきたのかが見えてくる。展示の中には、日本統治期に整備された水利の歴史に触れるものもあり、地域の過去と現在が「水」を通じて結びついていた。

桃園の過去・現在・未来を扱う展示では、交通や都市の変化が立体的に表現されていた。桃園から台北へ通勤する人々の移動や、鉄道を地下化した場合の未来の姿などを、模型や映像を通じて体験できる。地域の計画を情報として伝えるだけでなく、来場者自身が未来の選択を考える仕掛けになっていた。展示を通じて、私たちに未来を考えるきっかけをつくっている。




風景や文化を、五感と暮らしから伝える
桃園の自然を紹介する展示では、山や川の景色を映像や音、そして、桃や杉の香りも取り入れて表現していた。視覚だけに頼らず、音や香りを通じて土地の印象を伝えることで、来場者が桃園を身近に感じられる空間をつくり出している。

また、サテライト会場の一つ、桃園市復興区の角板山公園内の施設では「原生力(oi ha hai)」が展示されていた。桃園市は、台湾で唯一、政府が認定する原住民族16族すべてが暮らす都市である。都市ではなく、地域の文化や暮らしに近い場所で展示が行われ、展示物だけでなく、その場の空気とともに文化に触れられた。




展示では、桃園の食文化や食器、鍋などを通して、それぞれの民族の暮らしが紹介されている。映像空間では、来場者が体を動かしながら民族の踊りに参加できる仕掛けもあり、複数の文化が重なる日常を体験的に学ぶことができる。文化を単純な説明だけにとどまらせることなく、暮らしの背景とともに伝えていた点が印象に残った。



AIの利用を支える、見えないエネルギー
今回、最も大きな気づきを得たのが、AIと環境負荷を扱う展示であった。

AIは、環境対策の現場でも活用されている。人の目だけでは把握しきれない状況を検知し、監視や対応を効率化することができる。展示では、行政が環境対策にAIを取り入れる事例も紹介されていた。

一方で、大規模なAI処理には電力が必要であり、クラウド上の情報を保存・利用し続けることにも電力が使われる。スマートフォンやパソコンを操作しているだけでは、その先にある設備や電力消費を実感しにくい。展示では、使われないまま保管されるデータも含め、情報を支えるエネルギーの消費量が可視化されていた。

技術を導入することと、その背景や影響を理解すること。両方を視野に入れて初めて、AIを社会や環境のために生かす道筋が見えてくる。便利さの裏側を可視化し、人々に認識してもらうこともデザインが担う重要な役割である。
展示空間そのものを、資源循環の実践にする
サステナビリティを扱う展示では、展示空間そのものが循環の仕組みを伝えていた。ペットボトルのキャップや工事現場で使われるホース、回収されたマスクなどを、椅子や什器、装飾に活用。素材の特性に合わせて、新たな用途が生み出されていた。

注目したいのは、素材を再利用して終わりにしていない点だ。展示後に工場へ戻すことを前提にした什器や、回収した素材を次の製品につなげる仕組みなど、使い終えた後の行き先まで考えられていた。使用済みおむつの回収・再資源化に向けた取組も紹介されており、行政や病院などと連携して、すでに回収の仕組みを社会に組み込んでいたのが印象的だった。


展示空間をつくること自体が、資源を消費する行為でもある。そのため、何を使い、展示終了後にどうするのかを設計することは、展示の内容と同じくらい重要だ。ここでは、循環型のデザインが理念にとどまらず、具体的な仕組みとして提示されていた。この「台湾デザイン展」で使われている展示のための什器や備品も、すべてリサイクルされる設計になっている。

【知見1】AIの価値は、裏側にある資源の流れまで見て考える
AIは、環境対策や業務の効率化に役立つ一方、利用や情報の保存にはエネルギーが必要となる。便利さだけでなく、その仕組みを支える資源や環境負荷まで可視化、身体で体験することで、技術の使い方を見直すきっかけが生まれる。
【知見2】地域の文化は、暮らしや場の空気とともに伝わる
桃園の自然、食、原住民の文化、多様な民族の暮らしは、地域を形づくるだけでなく、特徴づける大切な要素である。土地に根づく文化を伝えるには、情報を並べるだけでなく、その背景にある暮らしも場や体験を通して伝えることが大切である。そうしたデザインが、文化への理解や共感を促す。
【知見3】循環の仕組みは、使った後までデザインする
什器や展示素材を再利用するだけでなく、展示後の回収や次の用途まで設計する。桃園の展示は、資源循環を展示空間の運営そのものに組み込んでいた。デザインは、素材の見た目を整えるだけでなく、資源が循環する仕組みをつくることにもかかわっている。
「FLOW」は、人やモノが移動する流れだけでなく、水、情報、文化、資源が地域の中を巡る姿を映し出していた。桃園の展示を通じて見えてきたのは、地域の個性を紹介することにとどまらず、その背景にある流れを読み解き、次の暮らしや産業のあり方へつなげるデザインの力である。




沖縄にも、空港や港を通じた人の流れ、島々を結ぶ海や水の流れ、地域に根づく多様な文化と産業がある。そこにある目に見える魅力だけでなく、普段は意識されにくい資源やエネルギーの流れまで見つめることが、持続可能な地域づくりの出発点になる。


私たちDIOは、台湾での学びを沖縄の地域や企業の実践へとつなげながら、デザインが社会に生み出す変化を探っていく。


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